「大人になっても吃音が治らない」「電話や会議で言葉が詰まり、恥ずかしい思いをする」「面接や人前で話すのが怖くて避けてしまう」──そんな悩みを抱える大人の吃音当事者は少なくありません。
吃音は子どもの頃に発症するケースが多いものの、大人になっても症状が残る人もいます。また、ストレスや環境変化がきっかけで大人になってから発症する「遅発性吃音」も存在します。職場でのコミュニケーションや社会生活に支障をきたすこともあり、「なんとかしたいけれど、どうすればいいか分からない」と苦しむ人が多いのが現実です。
本記事では、大人の吃音に悩む方に向けて、原因や背景、誤解されがちなポイントを解説するとともに、日常生活や仕事で実践できる具体的な対策を紹介します。言葉に詰まっても、自分らしく話せる日常を取り戻すヒントがここにあります。
大人の吃音とは?その原因・特徴と社会的影響
吃音の種類と発症時期
吃音には主に2種類あります。
- 発達性吃音:幼少期(2〜6歳)に発症し、成長とともに軽減または持続するタイプ。
- 獲得性吃音(遅発性吃音):大人になってから、ストレスや脳疾患、トラウマなどをきっかけに発症するタイプ。
成人期に残る吃音の多くは、発達性吃音が改善せず持続したケースですが、環境要因や精神的負担によって再発・悪化することもあります。
よくある誤解と偏見
「緊張しているだけ」「気合が足りない」「言葉を選んでいない」など、吃音を性格や努力不足と誤解する人も少なくありません。実際は脳の音声処理機能に関わる神経系の特性とされており、意思の力だけで治せるものではありません。
職場や社会生活への影響
大人の吃音は、以下のような場面で強いストレスを引き起こすことがあります。
- 電話応対やプレゼンなどの業務
- 名前を名乗る場面(初対面、受付など)
- 会議での発言や上司への報告
そのため、自信喪失や回避傾向が強くなり、うつ状態や対人恐怖につながるケースもあります。
実例:Eさん(福岡・30代・男性)のケース
Eさんは幼少期から吃音があり、大人になっても「カ行」「タ行」で詰まりやすく、営業職に強いプレッシャーを感じていました。発語に自信がなくなり転職も経験しましたが、就労移行支援事業所で吃音に理解のある環境と発話訓練を受けたことで、今では接客業で働いています。
大人の吃音を乗り越えるための5つの実践的対策
- 1. 吃音を否定せず、受け入れる
吃音を「隠す」ことで余計に緊張し、悪化することがあります。まずは「どもっても大丈夫」と自分を受け入れることで、心理的な緩和が生まれます。Fさん(東京)は、「私は吃音があります」と自己紹介で言うことで、対人関係がぐっと楽になったと語ります。 - 2. 言いやすい言葉を選んで伝える
吃音は特定の音に出やすいため、同じ意味でも別の表現に置き換える練習をすることで、会話のスムーズさが向上します。例:「こんにちは」→「どうも、よろしくお願いします」 - 3. スロー・スピーチの練習
早口になりがちな人は、あえてゆっくりと話す練習をしましょう。腹式呼吸と組み合わせることで、リズムが整い、詰まりにくくなります。 - 4. 専門的な言語聴覚士に相談する
言語療法の専門家である言語聴覚士(ST)に相談することで、吃音のタイプに合った発話訓練を受けられます。全国の病院やクリニックにSTが在籍しており、大人でも通えます。 - 5. 就労移行支援の活用
吃音が原因で仕事に支障がある場合、「発達障害」や「コミュニケーション障害」として就労移行支援の対象になることがあります。大阪や名古屋の一部の事業所では、発話訓練や模擬面接を通して吃音に配慮した就職支援を実施しています。
Q&A:大人の吃音に関する疑問に答えます
Q. 吃音は治るのでしょうか?
A. 完全に消えるとは限りませんが、多くの人が訓練や経験を通じて「話しやすい状態」を作り出しています。「改善」は十分に可能です。
Q. 病院に行くべき? 何科を受診する?
A. 吃音に関しては、まず耳鼻科か心療内科、言語聴覚士がいるリハビリ科のある病院を受診するとよいでしょう。特に言語聴覚士が在籍する機関がおすすめです。
Q. 障害者手帳は取得できますか?
A. 吃音単体で手帳を取得するのは難しい場合がありますが、ADHDや発達障害を併発しているケースでは精神障害者保健福祉手帳の対象になることもあります。
Q. 就職や面接で不利になりませんか?
A. 吃音への理解は徐々に広がっています。支援機関を活用し、自分の特性を伝えた上で働ける環境を選ぶことがカギです。事前に配慮を求めることも可能です。
まとめ:吃音でも、自分らしく話して働くために
大人の吃音は、決して「甘え」や「努力不足」ではありません。神経系の特性であり、正しい理解と工夫があれば、社会生活や仕事にも前向きに向き合うことができます。
東京・大阪・名古屋・福岡など都市部では、吃音に配慮した就労支援や訓練の場も増えています。あなたが「自分らしく話したい」と願うなら、支援を受けながら一歩踏み出すことが何よりの改善への道です。
言葉に詰まっても、それはあなたの価値を下げるものではありません。むしろ、工夫と努力を重ねて話すあなたの姿は、多くの人に勇気を与えます。